「データ復旧率」が高い業者は信頼できる?「復旧率」表示の真相
故障したHDDやSSDなどの記憶媒体に保存されているデータを復旧したいとき、専門業者が提供するデータ復旧サービスについて調べていると、「データ復旧率」という言葉を目にすることがあるかもしれません。
「データ復旧率が高いということは技術力がありそう」
「大切なデータなのでデータ復旧率の高い業者へ依頼しようと思っている」
こう判断する方も多いのではないでしょうか?
しかし、この「データ復旧率」は、それぞれの業者が自由に算出して宣伝文句などで謳っているのが現状です。
そこで今回は、「データ復旧率」がどのようなものかをはじめ、2022年8月に発表された業界ガイドラインをもとに、悪質な業者から被害に遭わないためのポイントなどについて詳しく解説します。
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「データ復旧率」とは?現状の課題とカラクリを解説
はじめに、「データ復旧サービス」と「データ復旧率」という言葉についての基礎知識を解説します。
「データ復旧サービス」と「データ復旧率」とは?
「データ復旧サービス」は、HDDやSSDなどの記憶媒体が故障した際、仕事で使う重要データやプライベートの大切なデータなどの保存データの救出を試みるサービスです。専門業者が特殊な技術を用いて対応してくれます。故障の度合いなどによるので必ずデータ復旧できるとは限りませんが、復旧実績やノウハウが豊富な専門業者は頼もしい存在といえるでしょう。
データ復旧業者の中には、自社のWebサイトや広告などで「データ復旧率」という言葉を宣伝文句として謳っている場合があります。また、利用者側としても「データ復旧率が高いことは良いこと」「その専門業者が技術力を有していること」ととらえている方もいることでしょう。
しかし、「データ復旧率」という言葉は独り歩きしているのが現状で、利用者としても気をつけるべき注意ポイントがあるのです。
「データ復旧率」には明確な定義がない
「データ復旧率」は、多くの場合、故障した記憶媒体からデータを取り出すことに成功した割合のことを指すものと考えられます。しかし、「データ復旧率」の算出方法は、法律や規格などで決められた明確な定義はなく、業者ごとに算出の仕方が異なるのが実態です。
例えば、以下のような算出方法があります。
- 専門業者が依頼を受けた件数のうち「復旧できた件数」を復旧率としている
- 記憶媒体全体のデータ量から「復旧できたファイル数」を復旧率としている
- 依頼者が「指定したデータが復旧できた割合」を復旧率としている
依頼件数から復旧率を算出している場合、記憶媒体から具体的にどれほどのデータ量を復旧できているのかは分かりません。また、いずれの場合でも、故障の種類や深刻度などが考慮されているかどうかは把握しようがありません。
このように、一部の専門業者が掲げている「データ復旧率」は業者が自由に算出方法を設定できるので注意が必要です。
「データ復旧率が高い=技術力が高い」とは限らない
データ復旧サービスの中には「データ復旧率90%以上」といった宣伝文句を掲げている業者を見かけることがあるでしょう。しかし、先に説明したように「データ復旧率」に明確な定義はなく、統一の算出方法があるわけではありません。業者にとって都合良く宣伝することも可能なのです。
「データ復旧率」が必ずしも技術力の高さを示すものではない点について、例えば、以下のようなケースで比べてみましょう。A社とB社ではどちらの技術力が高いでしょうか?
・A社のデータ復旧率は90%
A社は市販データ復旧ソフトなどで対応可能なレベルのデータ復旧を取り扱う。非常に軽い障害レベルのデータ復旧を年間1,000件受け付けて、900件成功した。
データ復旧率【900件÷1,000件=90%】
・B社のデータ復旧率は60%
B社はビジネス用途のサーバのデータ復旧を専門に取り扱う。中度・重度障害レベルのデータ復旧を年間1,000件受け付けて、600件成功した。
データ復旧率【600件÷1,000件=60%】
上記は極端な例ですが、受付件数のうちデータ復旧に成功した件数を「データ復旧率」とした場合、対応している作業レベルはB社の方が難しいのにもかかわらず、A社よりも劣っているかのように見えてしまうのです。
このように「データ復旧率」が技術レベルの高さを示すとは限らず、算出方法やその根拠に目を向ける必要があります。
ネットの検索順位が高くても信頼できる業者とは限らない
データ復旧サービスを探す際には、インターネットで検索することも多いでしょう。検索結果には、ユーザーによく検索されている有名企業あるいは大手業者のWebサイトが上位に表示される傾向にありますが、広告費を支払えば検索結果の1ページ目の目立つ場所に表示させることも可能なのです。
そのため、検索結果の上位に表示されるだけで「信頼できるデータ復旧業者」と考えるのは早計といえます。特に、高い「デ―タ復旧率」を宣伝文句にインターネット広告を出している専門業者に対しては、説明を鵜呑みにしないようにするのが賢明でしょう。
具体的な復旧事例や料金表、データ復旧に関する説明内容、問い合わせ時の対応なども含めて、総合的な観点で検討することが大切です。
「データ復旧率」の表記によって起こる被害事例
次に、データ復旧業者が掲げる「データ復旧率」の表記が原因で起こる被害事例について見てみましょう。
<Aさんの被害事例>
記憶媒体が故障し、データが消失したかもしれないと焦っているAさんは、Webサイトで高い「データ復旧率90%」を提示する業者を見つけました。この復旧率がどのように算出されたのか、根拠が分かる説明はWebサイト上には記載されておらず、詳しい説明も受けませんでしたが、一刻も早くデータを取り戻したいAさんはこの業者へ依頼します。
その結果、Aさんは納得できる復旧結果を得られませんでした。しかし、業者側は「データ復旧できない10%のまれな事例だった」としてAさんへ納得を迫ります。さらに、十分なデータ復旧ができなかったにもかかわらず、診断料や作業料の名目で当初話になかった高額な費用を請求し、「これらを支払わなければ預かったデバイスを返却しない」と言うのです。
※上記の被害事例は実際に発生した事例ではありません。よくあるトラブル原因を参考にしたフィクションです。
このように、「データ復旧率」を宣伝文句にして依頼者を集め、到底納得できないような対応を行う悪質な業者が存在していますので十分に注意しましょう。
データ復旧サービスのガイドライン策定
これまで見てきたように、業者ごとに算出方法が異なる「データ復旧率」はトラブルを招く要因の一つでした。こうした状況に鑑み、データ復旧業界の健全化を目指して活動している一般社団法人日本データ復旧協会(DRAJ)が、2022年8月に『データ復旧サービスのガイドライン』を発表しました。
ここからは、同ガイドラインのポイントをご紹介しましょう。
日本データ復旧協会(DRAJ)とは
一般社団法人日本データ復旧協会(DRAJ)は、2009年、データ復旧サービスを提供している5社により設立されたデータ復旧業界の団体です。多くの消費者が安心してデータ復旧サービスを利用できるように、データ復旧業界の健全化に向けた活動を行っています。
公式サイトには、同協会の設立趣旨をはじめ、会員企業の紹介、データ復旧サービスの利用に伴うトラブル相談の窓口案内などが掲載されています。
■詳しく知りたい方は下記の同協会の公式サイトをご覧ください。
わたしたちはデータ復旧業界の健全化を目指します。 | 日本データ復旧協会-DRAJ
2022年に策定されたガイドライン
高い「データ復旧率」を掲げるような業者と依頼者の間で起こるトラブルを防ぐために、データ復旧協会(DRAJ)は2022年8月に『データ復旧サービスのガイドライン』を発表しました。
同ガイドラインでは、データ復旧業者に向けて、以下のような5つの項目を提唱しています。
- データ復旧業者は「データ復旧率」という言葉を営業活動に使わないよう推奨する。
- 合理的な根拠と説明がなされない高い「データ復旧率」は、データ復旧サービスの利用者を不当に呼び込んでしまう恐れがあるため、Webサイトや広告などで使用しない。
- 通常、データ復旧できない障害が3~4割程度は見込まれるものである。復旧できなかったケースを抜いた実績や説明は利用者を誤解させるため、復旧できなかったケースも実績に含める。
- データ復旧ができなかった場合、診断料などの名目で作業に見合わないような多額のお金を請求しない。
- 費用基準については、同協会が定めた「RDRSP:2022 基準」を活用する。
依頼者がデータ復旧業者を選定する際には、この5つの項目をその業者が満たしているかどうかを基準にするといいでしょう。
データ復旧に関する用語の定義
データ復旧業界には、普段の生活ではあまり使うことのない用語が使われています。『データ復旧サービスのガイドライン』には、データ復旧に関する基本的な用語の説明が掲載されていますので、いくつか引用してご紹介します。
データ復旧サービスの利用を検討する際、業者の説明する用語がどのようなことを意味しているのか、ぜひ参考にしてください。
・障害
データ復旧を必要とするお客様においてはデータを読み出せなくなった何らかの過程があることから、本ガイドラインではこの過程をデータ読み出し障害と呼ぶことにしました。
・原因
落下等の衝撃、外的圧力、使用による消耗、温度や湿度、ホコリなど利用に適さない環
境や気候等に起因する電磁的記録媒体の故障、サイバー攻撃、人的または自然災害・事故
等による消去・削除、破損、故障などデータの消失を引き起こすもととなったこと。
・操作
誤操作、書き込み、負荷を与えるアクセス、加工または不適切な処置に加え、放置、分解などの人為的処置を含めた状況を悪化させるきっかけのこと。
・度合い
論理的な障害の深刻度(例:データ量、規模、範囲など)、物理的な障害の深刻度(例:軽度、中度、重度など)のこと。
※データ所有者がおかれた危機的状態を指すものではありません。
出典:『データ復旧サービスのガイドライン』(一般社団法人 DRAJ 日本データ復旧協会)
記憶媒体が障害を起こす原因
記憶媒体が障害を起こす原因はさまざまですが、大きく分類すると「論理的障害」と「物理的障害」の2つのタイプに分かれます。
<論理的障害>
論理的障害は、HDDやSSDなどの記憶媒体は正常に動いているものの、ファイルの欠損や人為的なミスによってデータの読み書きができなくなってしまう状態です。システムに必要なファイルの消失、外付けメディアの接続・取り外し時の不適切な取り扱い、誤操作による初期化(フォーマット)やデータ削除などが原因になります。
<物理的障害>
物理的障害は、HDDやSSDなどの記憶媒体に物理的な問題が生じて、データの読み書きができなくなってしまう状態です。外部からの衝撃、水没、経年劣化などによる物理要因、高温・低温、結露、多湿、過電流、磁気異常などの環境要因が原因になります。
データ復旧の費用の明確化
たとえ実績や技術力があり信頼できる専門業者へデータ復旧作業を依頼しても、障害などの状況によって必ずしも全てのケースでデータ復旧できるとは限りません。同ガイドラインでは、会員企業への調査結果として、依頼を受けた件数のうちデータ復旧できないケースが3~4割程度は発生しているとしています。
その場合、記憶媒体の調査・診断、復旧作業にかかわる費用についてはどのように考えればいいのでしょうか。同ガイドラインでは復旧業者の視点から次のようなチェックリストを示しています。
<データ復旧の費用負担チェックリスト>
診断料 | 作業料 | |
---|---|---|
データ復旧できた場合 | 復旧業者または依頼者負担 | 依頼者負担※記憶媒体の種類や障害の度合いによって作業内容はさまざま。正式依頼の前に十分な説明を業者が行い、依頼者と同意することが重要 |
データ復旧できない場合 | 依頼者負担※高額な診断料を依頼者負担とするのは不適切。ただし、作業の難易度などによって相応の負担が依頼者に発生する場合もあり、その場合は事前の十分な説明をすることが重要。 | 復旧業者負担 |
データ復旧できた場合・できない場合いずれにおいても、復旧業者が事前に十分な説明を行うことや、依頼者側もその説明に納得して依頼をすることが重要なことが分かります。
悪質なデータ復旧業者から被害に遭わないためのポイント
根拠があやふやだったり、業者が都合よく宣伝していたりする「データ復旧率」だけを見て専門業者を選ぶと、トラブルに発展する恐れがあります。最後に、高額請求などをする悪質なデータ復旧業者から被害に遭わないために、抑えておきたい注意ポイントをまとめてご紹介します。
記憶媒体の診断の際に起こるトラブルの注意点
データ復旧サービスでは、障害が発生した記憶媒体の状態を業者が確認するため、「診断」や「調査」を行うのが一般的です。問い合わせをする際には、以下のような点について注意しましょう。
- 診断や調査で分かることや結果通知方法
- 診断料や調査料といった費用発生の有無
- 診断や調査後に、データ復旧依頼をとりやめる場合の費用発生の有無
- 診断料や調査料が有料となるケースとその場合の費用感
- 記憶媒体を業者へ送付するまたは返却してもらうときの輸送費負担
例えば、「初期無料診断」と謳っているにもかかわらず、何らかの理由をつけて後から高額な費用を請求するような悪徳業者もあります。適切な業者であれば、依頼者の不明点はできるだけ解消するよう事前に十分な説明を行うはずです。
復旧作業の依頼前後に起こるトラブルの注意点
復旧したい記憶媒体の診断・調査を行って、実際にデータ復旧作業をする際には、以下のような点について十分な説明を業者が行ってくれるか注意しましょう。
- データ復旧の「同意書」や「依頼同意書」の目的や内容
- データ復旧の見積もり金額と作業内容
- データ復旧作業完了までのおおよそのスケジュール
- データ復旧できた場合、取り戻したデータの返却方法(※通常は故障した記憶媒体は破棄され返却されません。データは新しいUSBメモリなどの記憶媒体に保存して返却されます)
- データ復旧できなかった場合の費用負担の有無
- 記憶媒体を業者へ送付するまたは取り戻したデータを返却してもらうときの輸送費負担
信頼できるデータ復旧業者を見極める
「データ復旧率」の数値を見るだけでは、データ復旧業者の信頼度を判断する基準にはなりません。では、信頼できる業者をどのように選べばいいのでしょうか。
これまで見てきたように、合理的な根拠のない「データ復旧率」を宣伝文句にしている業者を避けることはもちろん、料金が発生するタイミングや作業内容、見積もり金額などに関して事前に十分な説明を受けられるかどうかが大切です。
不明点があれば遠慮をしないで問い合わせましょう。納得のゆく説明をしっかりと行ってくれる業者であれば、信頼に値する業者といえるでしょう。
また、一つの方法として、一般社団法人日本データ復旧協会(DRAJ)に加盟している業者を選ぶ方法が挙げられます。対応している業務範囲が異なりますが、依頼内容や費用面が折り合えば安心して依頼できるでしょう。
加盟業者について詳しくは下記リンクからご覧ください。
■会員企業 | 一般社団法人 日本データ復旧協会-DRAJ
「データ復旧率」に惑わされずに信頼できるデータ復旧業者に依頼しよう
「データ復旧率」は業者によって算出方法が異なるため、復旧率の高さでデータ復旧業者を選ぶべきではありません。ここでご紹介したような業者選びのポイントを参考に、事前にしっかりと説明を行ってくれる業者を選ぶようにしましょう。
A1データは、一般社団法人日本データ復旧協会(DRAJ)の会員企業で、『データ復旧サービスのガイドライン』に沿ったサービス提供をしています。HDDやSSD、サーバなどのデータ復旧をご検討の際には、ぜひお気軽にご相談ください!